小説
Every Little Thing
第 7 話
新一がコナンなのだと知ってから彼とともに過ごした時間を思い返しながらも、もうコナンが無意識に哀を愛しているのだと知っていた。以前は小さなことだと無視していたものが、突然目立つようになった。
「新一」
静かに言う。
「なんで元に戻りたいの?」
コナンはそれにひどく驚いたようだ。
「元の自分に戻りたくないなんてことがあるか?」
困惑したように聞き返してくる。
哀は二人をちらりと見やり、自分に関係の無い会話だと感じるたみたい。
「江戸川君、私は博士のところに戻ってるから」
コナンは彼女に向き直った。
「何で家って呼ばないんだ?」
コナンが彼女に笑顔を向ける。
「そうだってもう分かってるんだろ」
哀はそれにあきれたように言う。
「晩御飯は七時だから」
返答の変わりにそういい残すと、手を振るでもなくほかの少年探偵団を探し、帰った。
哀を見送るコナンを見ながら、さびしげな笑みが浮かぶのをとめられなかった。
「元に戻って得るものはもうないのよ、新一。いえ――」
これは正さなければいけない。
「――コナン君」
「どういう意味だ、蘭?」
今度は困惑しきったように聞いてくる。
「親がいる。友達もいる。お前だっている」
「あなたの両親ならあなたが何歳に見えても受け入れてくれるわ。おば様の反応をみると子供のときのほうが好かれてるみたいだし」
それにコナンは少し憮然となる。
「江戸川コナンとしても友達がいるでしょう。新一のときより多いんじゃない?江戸川コナンとしての生活もあるわ」
「ならお前はどうなるんだ?」
コナンが静かに聞く。
「お前を愛してるのは変わらないけど、こんな姿じゃそれもままならない」
跪き、彼の海のように青い目の奥深くを覗く。
「あなたとのつながりが無くなるわけじゃないわ」
彼に言った。
「ずっと友達でしょう」
コナンが次の質問を決意するまで重く長い沈黙が続いた。
「俺のことを愛してないから、今のままでいろってことか?」
それに涙がこみ上げてきてゆっくりと私の頬を伝った。コナンが背伸びしてそれを指で拭い取る。
「新一を愛している。それは今も変わらないわ」
そう囁く。
「けど、私が愛する新一はあの日、トロピカルアイランドに行った日に死んでしまったの。あなたは、私がしる人とは違う」
「同じだ!」
コナンが主張した。
「それが真実だとしてもあなたは違う人を愛しているから、その人からあなたを取ることなんてできないわ」
「お前以外のやつなんて愛してない!ほかに誰を愛せるってんだよ?」
コナンが私を問いただす。
「哀ちゃん」
コナンの顔から表情が落ちる。
「冗談だろ、おい」
「新一、考えてごらんなさい」
コナンに答える。
「あなたが彼女のためにする小さなこと一つ一つに、気がついちゃうの。否定するのはあなたの自由よ。けど、結局はその小さなことが私を肯定する。意識的に私を愛そうとしてるのは分かるわ。けど、愛っていうのはそんなものじゃないでしょう。愛するのにその認識は必要じゃないのよ」
蘭はそう言いのこすと、滑らかな頬を涙が濡らすのと同時に背を向け去った。コナンは追わなかった。彼女を追いかけなかった。桜が美しく舞い散る中、静かな湖面に反射する沈む陽の光の中、ただただ初恋が去るのを見ているだけしかできない。コナンはふりむくと、緑の芝生の上を歩いていった。足音は少し湿ったその感触に消されていく。蘭に考えてごらんなさいと言われた彼だったが、真実、もう心の中では答えがでていた。
晩御飯は七時からだ。家に帰り、灰原に解毒剤の研究を中止してもいいと告げるのに、まだ四十三分ある。