小説

Every Little Thing

第 6 話

歩と元太と光彦は公園でちょっとした鬼ごっこをしていた。その横で会話をしている子供じゃない二人に接近する。

「解毒剤の研究の最終段階に入ったわ」

哀がそっと言った。

「もう少しで用意できると思う」

しかしコナンからの反応は頷きだけだ。

「そう」

哀はそんな彼を一目見る。

「あら、もう少し興奮してくれるかと思ったのだけど」

平坦な声で続ける。

「あなたの人生を元通りにしようと精一杯がんばってるのよ」

「それは知ってる」

コナンはそれに小さく返す。

「もっと興奮していいものだと思ってるんだ。けど、ずっとこうして過ごしてきたせいか失せたみたいになくなっちまったんだよ、熱狂的なところが」

「新一」

コナンと哀が私を見上げた。
動じない哀の表情を見て、自分の中にあった疑惑が確信にかわる。
哀を見下ろす感じになる。

「あなたも小さな女の子じゃないんだ」

それだけを優しく言う。

何を言うかを決められないみたいで、目の前の二人は沈黙する。目配せで会話する二人を見て、今一度あのときの校庭でのように理解できない映画を見ている気分になる。

新一を責めたい気持ちを抑えきれず、責めてしまう。

「真実を言ったって、新一言ったじゃない」

コナンはため息をつきながら風にふかれた髪を手櫛でなでつける。

「ああ、言ったよ」

強調するために繰り返す。

「言ったことは全て真実だ」

「哀ちゃんのことは言ってくれなかったじゃない」

私が続ける。

「それは俺が言えることじゃない」

コナンが私に返す。

「彼女が俺の許可なしに俺のことを絶対話さないように、俺には彼女のことを言う権利はない」

そして唐突に理解した。
なぜ新一との関係が違う感じがしたのか。
なぜあるはずのものが無い気がしていたのか。

新一と私は、新一が縮む前とはもう違う人になっていたんだ。灰原哀が彼のために解毒剤を開発しているのだとしたら、彼女もまた新一と同じ境遇なのだろう。灰原哀が子供に戻って苦しんでいたコナンを支えていたのだ。灰原哀が日本最大の犯罪組織を壊滅させた経験をコナンと共有しているのだ。

コナンは私が経験してないことを経験しすぎていた。私を守るために正体を隠すことで、私は彼の生活から、ほんとうの生活から閉ざされた。コナンと哀との会話を理解できなかったのだって、コナンと哀が少ない言葉で会話できるレベルで理解しあえていたから。その口から発せられない言葉が私を混乱させていた。それにコナン、いえ、新一がいくら私を愛していると言ってくれても、行動で意識的に示してくれても、こういうことは小さなことが目立つ。小さなことに意味があるのだ。