小説
Every Little Thing
第 5 話
今日が最後の一押しだった。新一がミステリーが好きなのと同じくらいはっきり思い知った。
少年探偵団と一緒に遊園地から帰る途中に、また殺人事件にでくわした。もちろん、そんなチャンスをふいにする子供たちでないということは嫌というほど思い知っている。少し笑ってコナンに耳打ちする。体が大きくても小さくてもミステリーをひきつける体質は同じなのね、と。コナンは眉をひそめ、けど何も言わずに捜査を始めた。
以前から何回もコナンが推理しているのを見ている。今でも毎回、独特な動きをするたびになんでもっと早く確信できなかったのだろうと思う。新一そっくりに動くコナンを見るたびに、ずっと前に気付けたはずなのにと思ってしまう。
ほかの少年探偵団のみんなもそれぞれ鼻を突っ込みまわって怒られていた。灰原哀だけが一人、興味なさそうにたたずんでいた。私のそばで腕を組んで、表情は慎重に無表情で。少しかがんで哀に話しかける。
「哀ちゃんは興味ないの?」
哀はコナンと同じ、その年頃にしてはあまりに知性を秘めた目で私を見つめ返してきた。そのターコイズの海が私の魂の内を探っている気がするほどに。
「ただ怒られることに興味がないの」
静かに私に答えてくれる。
「江戸川君が十分に怒られてくれてるし」
それに軽く笑ってしまう。
「そうね。よく怒られてるよね、コナン君」
「私はそうは言わないけど」
それに興味を覚えて、すこし首をかしげて哀が続けるのを待つ。けど哀はただ近づいてきた大きすぎる眼鏡をかけた男の子に向き直った。
「よぉ、灰原」
「なにかしら、死体磁石さん?」
哀がコナンにむけて眉をあげた。
コナンが眉をひそめる。
「それで呼ぶな」
「あら、なんで?その名前でオンラインオークションに出したら数万円は簡単よ?」
哀が無表情につげた。
コナンはそれを今度は無視する。
「ただ、なんかこの現場で気になることがあるか聞きにきただけだよ」
彼女の口が得意そうに笑う。
「あら、名探偵のあなたが私の意見を欲しがるの?」
「なんでもねぇよ」
コナンの顔がイラつきにそまる。
そのままコナンが背を向けて歩き出したところに哀が口を出す。
「私だったら溺死は選ばないわ」
コナンは困惑した表情で振り返った。
「溺死は数ある死に方のなかでももっとも苦しいものに入るわ」
哀が続ける。
「死が体を蝕むその一瞬一瞬を感じたいなら別だけど。私が自殺するなら溺死以外の方法を取るわ」
それでコナンはひらめいたみたいだった。鞭打ちにならないか心配になるほどの速度で私のほうを振り向く。
「蘭、なぞを解くのにちょっと協力してくれないか?」
「え?」
コナン、いや、新一は矢継ぎ早に私に説明すると警察にむけて事件を解きだした。父の声を使っているのを何度も聞いているのに、新一の推理を自分の声で聞くのはひどく変な感じだ。それよりも驚いたのは、観衆がコナンの、私のかな、推理を追っている中、哀がコナンの文を補完できていたことだ。
その瞬間、新一との関係で何が間違っていたのかに気付いた。
なにか精神レベルで私がなかったもの。私がつかめていないものを、灰原哀は見てわかるほどによくつかめている。警察が観衆を散らしている横で、二人がまた何かを議論しあっている。
それでわかってしまった。
灰原哀はコナンが子供であるほどに子供なのだ。言い換えれば、子供ではない。その周囲を見渡す目、その話し方、そのコナンと同等の頭脳。
―それで全てがつながった。