小説
RINGS
第 5 話
アキトはゴチャゴチャになった感情をどうにかしようとしていた。リョーコの取った予想外の行動もゴチャゴチャの一因だった。彼女の元へと懇願されるか、ユリカの元へと押しやられるか。それのどちらかだと思っていた。けど、彼女はどちらともを主張した。こんなゴチャゴチャしたままではユリカとはちゃんと話せない、そう思いながら選択肢は一つしかなかった。
艦長室とプレートのついたドアをノックする。
「ユリカ、アキトだ。邪魔してもいいか?」
ユリカはすぐにドアを開けた。アキトの姿を目にとめたとたん、彼女の目に涙がたまる。
「アキト、入って。何で逃げたの?リョーコちゃんが言ったこと、嘘だよね?あなたがここにいるんだもの、もう大丈夫だよね。アキトは私が好きなんだよね」
「リョーコが言った事は本当だ」
「けど、なんで?アキトは私が嫌いになったの?」
「違う確立要素、つまり、違う世界に俺たちは飛ばされた。戻れるとは、思ってなかったんだ。リョーコは俺を愛してるんだ。ただ、こちらではあまり見せなかっただけで」
「それで、チャンスができたとたん、アキトに飛びついたの?」
「そんなんじゃないんだよ、ユリカ。リョーコは尊敬にあたる人だよ。俺への気持ちも隠したままだった。あっちで元に戻る可能性が絶望的だと思ってたとき、彼女は俺を愛していると言ってくれたんだ。断れなかった。もう、どうすればいいのか分からないんだよ。お前を愛してる。けど、リョーコも傷つけたくないんだ。彼女も愛してるんだ。もう、元の俺たちには戻れないと思う。地球に戻ったら、お前たちの前から消えるよ。それで、二人ともに会わない。それが、きっと、一番いい方法なんだ」
「アキト、私をおいていかないで。あなたを愛してるの。リョーコちゃんのことは違う世界で起こったこと。だからカウントしないの。リョーコとの事は許してあげるから。お願い、リョーコちゃんじゃなくて、私を愛してるって言って」
「二人とも、愛してる」
「二人ともっていうのは無理だよ、アキト。選んで」
「ユリカ、お前は俺にどうして欲しいんだ?」
「アキトと一緒にいたい。コックになる夢を手伝いたい。もう、戦いは終わりよ。ナデシコともお別れ。そんなに大きなことじゃないでしょう、あなたの望みは?この長い戦いのすえ、小さな幸せ。ルリちゃんを引き取って、家族として」
「あっちの世界でのことが忘れられないんだ。リョーコとイネスとユートピアコロニーのシェルターで暮らした。まだ、生きてたんだ。この世界では、彼らは死んだんだ。俺のせいで、お前のせいで、そして、メグミちゃんのせいで」
アキトが何を言ってるか理解したとき、ユリカの顔色が蒼白になった。
「リョーコと俺はあっちに残って、戦争の後でコロニー再建を手伝いつもりだったんだ。お前はまだナデシコの艦長で、あっちでは、ジュンがお前の婚約者だった」
「ジュン君が?」
ちいさな、小さな声。
「……」
「どうやって戻ってこれたの、アキト?」
「イネスがアイとしての記憶を取り戻したんだ。それで俺たちのことを信用してくれて、こちらに戻る方法を探してくれた」
「じゃあ、何でそっちに残らなかったの?リョーコちゃんと幸せだったんなら」
「俺たちのナデシコへ戻りたかった。俺たちの友達へ戻りたかった。俺たちは、あっちでは異端分子でしかなかったんだ。あっちでしたことは取り消せない。それを知った上で、俺はこっちに戻らなきゃいけなかったんだ。お前にもう一度逢いたかった」
少し、間が空く。
「リョーコちゃんはまだパイロットを続けたがってる。たぶん、パイロットとしてのアキトを愛してるんじゃないの?アキト、あなたはコックになりたいんでしょう?彼女と一緒にいきたいなら、その道は諦めるしかないよ。それに、コックとしてのアキトに対して、彼女は如何なの?」
「リョーコが自殺願望を持ってしまうみたいで、心配なんだ。あのコンテストの時の特攻、あれ、俺が気付いてあげられなかったせいなんだ。ユリカと一緒になってもリョーコがまたああなるなら、俺は幸せにはなれない。それに、俺はリョーコと寝たのに、お前はそれで幸せになれるのか?ユリカ、全部俺のせいなんだ。こんな事になるとは思わなかった」
「アキト、今晩は私と一緒にいて。私をおいてかないで。私を愛して」
「できない。できないんだ、ユリカ。今日来たのは説明のためだけなんだ。まだ、俺には選べない。ただ、傷つけるつもりは無かったんだって、知っていて欲しかったんだ。お休み」