小説
RINGS
第 27 話
食堂で働くのが楽しかった。
アキトのために野菜を切るという単純なことがなぜか心を落ち着かせた。
アキトの近くにいるのが好きだった。
その生活にリョーコがいるのも好きだった。
もとからのさっぱりした性格は、アキトといるからか少しまるくなった。
それでもほかの元ナデシコクルーにもっと頻繁に会えたらという思いがあった。
以前一度だけ、リョーコが地球での訓練があったときに一緒に連れて行ってくれたが、数日間しか時間がなかった。
そのときに会えたのはミナトとユキナだけで、それも少しの間だけだった。
アキトは食堂での仕事でいっぱいでいっしょには行けなかった。
私ももう十四歳になった。
少女はもう卒業。
体が成長していくにしたがって心も感情も次第に成長していく。
こういうことがおこるのは知識で知っていた。
しかし知るということと経験することはまったく違うものだった。
アキトへの想いが募っていく今日この頃。
アキトがリョーコのものだということも、自分がアキトとつりあいが取れないほどの年の差があるのも理解していた。
こういうときはナデシコ時代を、あの時歌った歌をおもいだす。
オモイカネが自分のために作ってくれたあの歌。
あの時、自分はアキトをおもってそれを歌った。
もし、もう一度会えたなら。
ほかの人より早く会えていたなら。
自分がもう少し早く生まれていたなら。
今でもなぜアキトがリョーコを選んだのかわからない。
ああ、だめなことを考えている。
リョーコがもっているものが欲しい。
嫉妬。
ユリカとミスマルおじさんのところに行けばよかった。
こんな醜いもの、欲しくないのに。
そんなルリの異変をアキトは感じ取っていた。
「ルリちゃん、どうかしたの?」
泣きたい。
アキトがその腕の中に私を抱きこんだ。
「だめ、アキトさん。お願い…」
もう涙を止められなかった。
見られないように、アキトの胸に顔をうずめた。
「ルリちゃん?」
「アキトさんはわかってない。ずっと前からそう」
ヒック。
「なんのこと、ルリちゃん?」
「ナデシコの女性クルー、みんなアキトさんのことが好きだったんですよ。
イネスさん、エリナさんまでもがですよ。
私だって、アキトさんのことが好きでした。
今だって好きです。
あの時は…前はその意味がよくわかりませんでした。
でも、今は…。
アキトさん、このことはリョーコさんにはお願いですから言わないでください」
「俺に何を言うなって?」
食堂へと通じるドアから聞こえてきたリョーコの声に、アキトとルリはパッと飛び離れた。
昼休みに食堂へ帰ってきたリョーコはルリの告白を盗み聞きしてしまったのだ。
リョーコはそのまま、ショックと不安が混じった表情で入り口に立っていた。
私は暗い目はそのまま、すべての表情を消してリョーコを睨んだ。