小説
RINGS
第 14 話
二人はイネスに勧められるまま椅子に座った。
「別にそんなに時間を取るわけではないわ。ただ、ちょっとだけ確認したいだけよ」
イネスが言う。
「別の現実へと逆行した。間違いないわね?」
「ああ、当ってる」
「火星のユートピアコロニーで私と会ったわね?」
「はい」
「私は確立要素の論理を説明した?」
「ああ、結構な時間をかけてな」
アキトとリョーコは一緒に嫌そうに嘆息した。
「質問はこれで終わりよ」
イネスは側に置いてあった怪しげなスキャナーを二人にかざして、何らかの測定をする。
「これ以上の質問がないのは、もう大体の話は知ってるからよ。私はあの時ユートピアコロニーにいて、あなた達と会った。今の記憶に加えて、私にはそのときの記憶がある」
「そんなことが有り得るのか?」
「あの要素が崩壊したのよ。もう少し実験をしてみないとハッキリとは言えないけれど、あなた達のような最高位の要素からの存在との関わりは特別な位が与えられるのだと思う。そんな関わりの記憶は、たとえその要素が崩壊してもより高位の要素の自分へと受け継がれるのだと思うわ。その結果、今の私にはその期間の記憶が二通りある。それで、あなた達には悪い知らせと言うか、注意することがあるわ。この現在の要素は最高位のものではないわ。いつか崩壊するかもしれない。何時崩壊か、もしくは本当に崩壊するのか、そしてその崩壊があなたたちにどう影響するのかは予測できないけれど」
「ここも本当の世界じゃないって言うのか?」
「アキト君、すべての要素は本当のものよ、実在する内はね。ただ、この世界は最高位の要素、または君が生まれた要素とは違うものだといっているのよ。違うといっても、違いは殆どないけれど」
「最高位の要素にボソンジャンプできないのか?」
「無理だと思うわ。そんな細かいジャンプを行うための正確さ、精密さは保証できない。違いがないだけに、要素間が小さすぎるのよ」
「じゃあ、この要素から抜け出す意味はあるのか?」
「何とも言えないわ、アキト君。私は要素を様々なクラスにわけている。最高位から別れ、交わりを繰り返すものなどは、ある程度安定していて長いこと存在できる。交わりを繰り返すために違いが小さいからね。ほかのは低確率のもので、比較的存在時間が短い。あなたたちが前回ジャンプしたのがそんな要素よ。もうひとつのクラスは、始めは限りなく近いけれど少しずつ要素間の距離が開く速さが増していくもの。こういうタイプのものは、始めは最高位の要素と似て数年、または数十年の間は安定して存在するけどその後はどんどん速く別れ、崩壊する」
一息入れる。
「私は要素間ジャンプによって余計な要素が創られてしまうと見ているの。無理矢理この要素からジャンプすると、問題が増えてしまうだけかもしれないわ」
「もし、この要素があなた達が生きている内に崩壊したら、突然状況が変わったり、以前なかった思い出などができるかもしれない。そしたら、また安定するわ」
「起こるまで心配する必要はないわ。もし起きたら、その時はその時で考えなさい」