小説
RINGS
第 1 話
ウリバタケ・セイヤが壁のパネルを外し、配線を少し弄くって壊れたカード読み込み機を回線から外した。
「ほらよ、ルリルリ。これで開くはずだ。俺は生命維持システムに取り掛からなきゃいけないから、これで行くぞ。艦体本部なしの、緊急用ブリッジ部だけの生命維持の限界を超えてるんだ」
「ありがとうございます、ウリバタケさん」
ウリバタケに小さな礼をして、ルリはアキトの部屋のドアを開けた。
「テンカワさん、少しいいですか?みんな心配してるんですよ。もう何日か食べてないでしょう?」
そういって煎餅のふくろを取り出して、アキトに渡した。アキトは袋を破り開けると、中身にかぶりつき始めた。
「艦長とスバルさんが、ギクシャクしてるんですよ、テンカワさん。なんで部屋に閉じこもったんですか?行方不明の間に何が起こったんですか?」
「ルリちゃん、これは大人の問題なんだ。ルリちゃんに理解できるか分からない」
「だから、こうやって子供みたいなことをしてるんですか?」
「俺とリョーコとの間に、関係ができたんだ。イネスの言う、異確立要素にいた間にね。全てが少しずつ違っていて、ユリカはジュンと付き合っていたんだ。俺は一番目の火星への航海の時には、ナデシコに乗っていなかった」
煎餅をもう一枚、口に運ぶアキト。
「リョーコもナデシコに乗っていなかった。ネルガルのドックで会って、コスモスに乗り込んだんだ。元の世界を知っていたのは、俺とリョーコの二人だけ。戻るためにイネスと接触もしたけど、最初は信じてくれなかったんだ。もう、俺のユリカとは二度と会えないと思っていた」
「俺とリョーコは、逆境のせいかな、元々あった距離が狭まったんだ。リョーコが俺を好いているのを、やっと気付いた。たぶん、ユリカとかメグミちゃんとかのことで頭の隅に追いやっていて、そのときまで気付かなかったんだと思う。あの一番星コンテストのときにリョーコが特攻したのも、そのせいじゃないかと思う」
「それで、変えるのに絶望したときに、やっとリョーコが俺への気持ちを認めたんだ。傷つかせたくなかった。今は、ユリカとリョーコ、二人とも愛してる」
「でも、イネスのアイとしての記憶がよみがえって、俺たちのことを信じてくれたんだ。それで元の確立要素へ戻る手段も用意してくれたんだ。ルリちゃん、俺は如何していいか、分からないんだ。一人を選ぶか、どちらとも選ばない。それしか選択がない。ここに篭ってたのは、考える時間が欲しかったからなんだ」
「ユリカさんを優先すればいいじゃないですか?初恋、なんでしょう?」
「そう簡単でもないんだよ、ルリちゃん。もうリョーコと一緒に寝たんだ。愛している、と言った。あの世界での生活も考えていたんだ。還ってこれたからといって、リョーコを傷つけたくない」
「私、少女です。大人のことなんて分かりません」
「ごめん、ルリちゃん。こんなこと話すつもりじゃなかったんだ」
「ユリカさんは私を引き取って、テンカワさんと三人で暮らしたいと言ってました。あなたが全てを滅茶苦茶にしてるんです!スバルさんと会って話をつけてきてください。あなたはユリカさんと共にあるべきです」
ルリは怒っていた。
馬鹿、と心の中で愚痴る。どうせ、レイナードさんと同じようになるんだ。軽い男。
けれど、ルリは何故、アキトの恋愛模様が自分苛立たせるのか分かっていなかった。
「ルリちゃん、両方に何時かは話さなきゃいけないっていうのは分かってるんだ。けど、関係を元に戻せるかは分からない。どうせなら、このまま二人共に会わないほうがいいのかもしれない」
「テンカワさん、あなたが如何すると決めても、お願いですから私だけは拒絶しないでください。あなたは私にとっても特別なんですから」
「それは心配しないで、ルリちゃん。いつも、いつまでも友達でいるよ」
ルリはそれを確認して、部屋を出て行った。
「煎餅、ありがとう、ルリ」