小説
LONELINESS
第 6 話
それを思いついたとき、リョーコはできるだけ平静を装うとした。テンカワは何処にいるのか、何時にいるのかも判らない。一応、内緒でナデシコのクルーのことを聞きまわった。今のところ、テンカワはナデシコ発進時にはクルーの中に含まれていなかった事と、アオイ・ジュンがアキトの代わりにエステで囮をした事の二つだけが収穫だった。
コスモスは、もう発進準備をしている段階だった。記憶のとおりに事が運ぶのなら、ナデシコがもうすぐ火星からチューリップを使ったボソンジャンプで帰ってくるはずだ。もちろん、記憶にある日にちだったら、なのだが。けれど、アキトなしで本当にそうなるのか?このタイム・パラドックスは本当に頭痛がしてくるほど分けが分からないものだった。俺たちなしで、ナデシコはどうやって同じ軌跡をたどるんだ?どうやったら元の世界に戻れる?こんなの、俺の人生じゃない!
翌日の朝、リョーコたちのチームに直ちにコスモスへと赴けとの命令が下った。リョーコ、カザマ、サクラはパイロット・トレーニング・センターからコスモスが停まっている地下ドックへと向かっている途中だった。その途中、自転車に乗った狂人とそれを追っていたジープいっぱいの警備員に阻まれた。
ぶつかる寸前、アキトはハンドルを深く切り、前ブレーキを強く握りこんだ。しかし、それだけでは止まらなく、アキトはきれいな弧を空中に描きながらカザマに体当たりをかました。二人はカザマを下に倒れこみ、アキトの頭は何か柔らかいものに当たって止まった。
「テンカワ、カザマと遊び終わったんならさっさと起き上がれ!」
なぜかその光景を見ていらついたリョーコが怒鳴る。
「リ、リ、リョーコちゃん!?」
目の前の顔にどもりながら立ち上がろうとするアキト。
俺のことを知っている!
「すみません、大丈夫ですか?」
いまだ立ち上がれないでいるカザマに礼をする。しかし、それが死んだイツキ・カザマだと認識すると、恐怖の表情が浮かび上がった。
アキトを追いかけていたジープが追いついてきた。少し離れたところに停車したジープから、警備員が六人出てくる。
「皆さん、あの男からゆっくり離れてください」
警備員が大きな声で指示する。
「あの男は自転車でゲートを突破し、狂っていて危ないとしか思えません!」
リョーコはそれを聞くと、アキトの頬をびんたで一発打った。
「いって~~!!何なんだよ、いったい!?」
「この馬鹿は俺の彼氏なんだ。俺の見送りに遅れただけさ、別に大丈夫だ」
「彼……」
アキトは何か言おうとしたが途中で考え直し、黙った。
「けど、パスなしで基地の中に入れることはできません」
「一日パスでも書いてやってくれないか?責任は俺が取るさ」
心の中で、リョーコは自分が着ているネルガルのパイロットの制服と中尉の階級を示す星が、ここの警備員にいい影響を与えるようにと願っていた。
「……それでいいのなら、いいですけど」
そう言いながら一人の警備員が一枚のカードを取り出す。カードの下のほうに引いてある線を指差しながら、それをリョーコに差し出した。
「ここにサインしてください」
リョーコはそのカードをサインすると、アキトにそれを投げてよこした。
後ろのほうでは、カザマとサクラが何事か呟き合いながらくすくすと笑っていた。
「二人とも、さっさと艦へ行け!」
リョーコの命令を受けて、二人は渋々リョーコとアキトの脇を通って地下ドックへと通じるリフトへ乗り込んだ。
何か変なことがおきているとカザマとサクラは思っていた。今のリョーコはあの臆病なサツキミドリⅡの大惨事の生き残りではなかった。リョーコはもちろん、自分たちよりも階級は上だったが、それでもこんなことはなかった。いつの間に基地を抜け出して、この地球にいた短い期間のうちに彼氏など作っていたのだろう?
気が付けば、二人の間のつぶやき声は前よりも盛んな状態になっていた。
警備員の乗っていたジープももと来たほうへと走り去って行き、アキトとリョーコは二人きりになった。
「リョーコちゃん、とりあえず話しないと」
「テンカワ、あの木星蜥蜴の巡洋艦のところで、いったい何が起こったんだ?」
「相転移砲の効果範囲外にみんなを飛ばそうと思ったんだけど、何かが起こって……時を遡っちゃったみたいなんだ」
「けれど、この時間の俺たちはどこへ行ったんだ?」
「知らない。イネスさんに会って聞いてみなくちゃ分からないと思う」
「テンカワ、ここで話をしている余裕はないんだ。コスモスがもうすぐ出航する時間で、俺はそれに付いていこうと思っているんだ。ナデシコに戻る一番の方法だと思ってな。お前もどうにかして乗り込ませるから、話は後にしよう」