小説
LONELINESS
第 40 話
イネスは何とか数週間で理論をまとめ、説明するために二人を呼んだ。
「フレサンジュ・確率要素による並列時空論」
説明会はそうして始まった。
「長くかかる?」
アキトが質問する。イネスには愚問だったのだろう、少し眉が寄せられる。
「かかるわ。けれど、飲み物は用意してあるわ、アキト君」
コホンと喉を鳴らした後、イネスは続きを話し始めた。
「並列世界は、長いこと続いている好評な理論ね。けっこうな数の理論家が無数の並列世界があり、時間移動の度に新しい世界が創られると言っている。けれど、今回のことでこの理論が成り立たないことが分かったわ」
「この世界は実は限りある少数の代替時空、私は確立要素と呼んでいるわ、によって構成されているの。この要素は厳密に言うと並列ではなくて、一つ一つが他の要素へ多次元的な意味で編みこまれ、人には想像し難い複雑な面を構成しているわ。この要素は表面張力が弱いところでは時折、隣接している要素と触れ合い、接合することがある。ブラックホールや相転移砲などが、代表的な例ね」
「あなた達二人はジャンプしたときに、隣接していた要素の中へと跳んだのよ。量子回転を分析することであなた達が最高位、確立『1』の要素からこちらの、より低い位置の確立要素へときたことが分かったわ。今現在のこの要素は、最高位の要素では起こる確率が低かった事が起きた世界なの」
「通常のボソンジャンプから分かるように、要素内の物質移動・時空移動は比較的簡単よ。けれど要素間の移動は、結果を高確率で予想するするのは不可能に近くなるわ」
「生体の要素間移動は無機質の場合と比べると比較的容易みたいだわ。自由意志や、思考が確立要素を変化させる働きがあるのか。それともただ単に魂の力なのか、謎のままよ」
「要素内の時間移動は臨時的な逆説を作り出す『自分と会う』を可能にするようだけど、要素間の移動ではそれを禁止する法則があるみたい。基本的に位置が高い要素からきたものが、より低い要素にいるものを上書きするの」
聞きたいことになかなか話が行かないのを見てか、アキトがイネスを遮って質問する。
「けれど、元の世界には戻れるのか?」
「それを説明するところだったのよ、アキト君。理論的には低い位置の要素にいるものがより高位の要素へと移るのは、その反対と比べたら容易よ。低位の要素にいるものが元々高位の要素で発生したものなら、より容易になるわ。低位の要素が、その要素より高位の存在をもとの要素へと戻すために弾き出すためね。あなた達は、ただ接合ポイントを探すだけでいいのよ」
「俺たちがこの世界を出たら、この世界はどうなるんだ?」
リョーコが尋ねる。
「私が思うには、この要素に元々いたあなた達が代替するでしょうね。私たちの視点からでは、あなたたちが来たことはなかった事になり、『元』に戻るわ」
「けど、それって自分の一部が死ぬようなことじゃないか?」
イネスの答えに、不安になったリョーコが聞く。
イネスはリョーコの問いに肩を傾げることで答えた。
「この要素みたいな低位置のものは、常に滅ぶ可能性を秘めている。やがて何時かは必ず消滅し、より確立の高い高位置の要素へと交わるわ。より高位置のものが交わってきた低位置のものを消化するので、高位置の要素は変わりなく続く。けれど、低位置の要素の影響は残り、デジャ・ヴのような形で現れるわ。要素は常に創られ、消滅する。人はただ交わりを気づかないだけなのよ」
「俺たちはここで起こったことを覚えていられるのか?」
アキトが聞いた。
「ええ、あなた達は最高位の要素から来たもの達。消化されることはないわ。納得がいったのなら、今すぐにでもCCで接続ポイントを生成できるわよ」
「けど、俺たちはCCを持ってないよ?」
「私は持ってるのよ」
イネスが足元においていた小さな黒いケースを持ち上げ、開いた。中には綺麗な、透き通った青色の結晶が鎮座していた。
「俺たちに嘘をついたんだな」
「仕様がないでしょう。貴重なCCを下らないことで失うわけにはいかなかったのよ」