小説
LONELINESS
第 29 話
ちょうど、ユーロピアコロニー跡を見るためにアキトとメグミがエステを降りたところに、アキトとリョーコが現れた。
リョーコはまだアキトに、まるで命がけのようにしがみついていた。まだ、腕の中にある温もりを手放したくなかった。
アキトは火星の薄く肌寒い空気を感じて身震いした。くすんだ薄い青紫の空を見上げて、故郷に帰ってきたんだと感じる。
「リョーコちゃん、もう離しても大丈夫だよ」
リョーコが名残惜しそうに、アキトから腕を解く。
「これからどうするんだ?」
「生き残りたちがいるシェルターの、ちょうど真上にいるよ」
少し足元を確かめるように数歩歩きながら、アキトが注意する。
「気をつけてね、以前はいきなり地面が陥没したから」
しかし、その忠告は陥没した地面にアキトが落ちたことにより、途中で途切れてしまった。リョーコは後ろに下がろうとしたが遅く、広がる穴にアキトの後を追うように落ちてしまった。
リョーコはアキトの上に落ちた。下にあった砂が、衝撃を少しは逃してくれたが、それでも痛いことには変わりなかった。二人とも絡まったまま、衝撃で麻痺してしまった体を動かそうとする。
フードをかぶり、埃避けのマスクをつけた人影を見つけ、リョーコは携帯していた銃を手に取ろうともがく。普段から携帯しているわけではないのだが、危険かもしれない場所にジャンプする、ということで今日は一応用意していたのだ。
「それは必要ないわよ」
女の声が空洞に響き、フードとマスクの下から、イネスの顔が表れた。
「ところで、彼の上からどいてあげたほうが良いかもしれないわよ。顔が青くなってるわ」
イネスだったことに安心し、銃を取り出そうとして四苦八苦していた手を止めて立ち上がった。
アキトはすこし久方ぶりに胸いっぱいに空気を吸い込む。イネスの姿を見て、軽いデジャ・ヴを感じる。
「どうやってここに着たのか、聞かせてもらっても良いかしら?」
「ボソンジャンプで跳んできました」
イネスの質問にアキトが答える。
「生態ボソンジャンプは今だ机上の空論よ。木星蜥蜴は無機物をチューリップを通してジャンプさせているようだけど、有機物をジャンプさせられないのは無人兵器だけしか出てこないのをみて推測できるわ。だから、あなたがボソンジャンプでここに来れたというのは疑わしい」
イネスはそう結論付けた。
「悪いけど、木星蜥蜴のスパイって可能性もあるからね。銃を渡してもらえるかしら」
イネスの後ろから、同じような服に身を包んみ、ライフルを手にした人たちがあらわれた。アキトとリョーコはイネスに従うしか選択が無かった。
「ついてきて」
イネスが命令する。
「そんなに心配しなくても良いわよ。もっとよく話ができるところに連れて行くだけだから」