小説

LONELINESS

第 19 話

「テンカワ、入っても良いか?」

アキトはゲキガンガーのアニメを止めて、リョーコを出迎えた。

「いいよ、リョーコちゃん」

アキトの返答にリョーコは部屋に入る。辺りを見回し、ゲキガンガーを見ていたのだと推測するとアキトが座っていたであろう座布団の隣に腰を下ろす。足を曲げ、膝を胸元に持っていき、頭だけをアキトのほうに向けた。

「ゲキガンガー、見てたんだろ?俺が来たってくらいでやめることはないぞ」

「リョーコちゃんがアニメあんまり好きじゃないのは知ってるよ。それに、本当のことを言うと、見たいって思ってみてたわけじゃないんだ。ただ、他に何もすることがなかっただけだよ」

「…ガイの死を見るのはこれで二度目か。落ち込んでるんじゃないのか?」

「大丈夫だよ。ガイが死んだってのは認めてる。もう、以前あいつの死を弔ったんだ。また落ち込むわけにはいかないさ。今回はあいつが死にたがっていたように死ねた。…それで十分だ」

「…わかった。で、本題に移るぞ。こっちのヒカルとイズミは俺たちの知っていたやつらと違う。テンカワ、あの時何が起こったんだ?」

「ああ、さすがに俺も気づいたよ。俺のこと知らなかったもんな」

「あの時、あの相転移砲で死んだのか?」

「はっきり言って、分からない」

「それと、ヒカルがユリカとジュンが付き合ってるって言ってだぞ」

「ユリカとジュンは前からお友達だっただろ?」

「違う、ヒカルはそれ以上だって言ってた。バーチャルルームでデートしたりしてるのを見たことあるって。…不安か?」

「別に。こっちのユリカは俺の知ってるユリカじゃない。何か、抜けてるんだ。あのナデシコでの思い出がない限り、『ユリカ』とは思えない」

「けど…も、もし、だからな?もし、還れなかったら…たとえ何かが欠けてても、何もないよりはマシ…じゃないのか?」

考えたくないことだった。

「それと、あいつらにお前のことを彼氏って紹介しちまった。そうする理由は、ここにはないのにな」

「気にしてないよ。それに、メグミちゃんに歯止めをかけてくれるだろうし」

「メグミのことは好きじゃなかったのか?」

「痛いところをついてくるね。メグミちゃんは俺がナデシコで始めて共感できた人なんだ。キス、しなけりゃよかったって今では思ってる。あの頃はお互いのことあまり知らなかったし…。とにかく、こっちでは同じ間違いをしたくないんだ」

「…じゃあ、今日、俺にしたキスはなんだったんだ?間違いだと思ってるのか?」

「リョーコちゃん、あれはただ見せ付けるためにやったんだ」

「俺は、そうは思えなかったけどな」

アキトは顔が高潮するのを感じた。

リョーコはそんなアキトの反応を見て、心が少し温る。しかし、この話題を続けると危険だと感じて、他の話題に移した。

「テンカワ、このナデシコにイネスは乗っていない」

「な!?なんで?」

「お前がいなかったから、ユートピアコロニーによる意味を見出せなかったんだ。生存者は発見しなかったらしい。だから、多分イネスは生き残りと一緒にまだ火星にいるんだと思う」

「火星の人たちが、まだ生きてるのか?」

「確証はないけど、多分な」

リョーコのこの報告にアキトの心は舞い上がった。

「だったら、助けなくちゃ!」

「そうする前に、イネスと連絡を取ったほうが良いと思うぞ」

「そうだね。けど、そっか。まだ生きてるんだ…」

舞い上がる心と同時に、身が凍るような考えにもたどり着いてしまった。

『ユリカのせいで、あの人たちが死んだんだ』

ナデシコがあの生き残りたちがいた洞窟の上に来たのは、ユリカがメグミに嫉妬したからだった。だから、自分たちをナデシコで追ってきたんだった。もし、ナデシコが来なければ、あのシェルターが潰れる事はなかったんだ。助けられなかったかもしれないけど、死ぬことはなかったはずだ。あの時、何故ユリカがあんなにも参っていたわけだ。ディストーションフィールドを張るか張らないかだけじゃなかったんだ。それが選択だったわけじゃなかったんだ。知ってたんだろうな、自分のつまらない嫉妬のせいでナデシコを最悪の状況に陥れたことを。

「…ユリカが生き残りたちを殺したんだ」

「あの時、ユリカに選択の余地はなかったんだよ、テンカワ。ディストーションフィールドを張らなくたって、シェルターにいた人たちは死んでたさ」

「ナデシコはあそこに来るべきじゃなかったんだ。ユリカはただ、俺とメグミを追ってユートピアコロニーに来たんだよ」

「お前のエステの直下にシェルターがあったなんて誰が予想できたってんだよ」

「ユリカが嫉妬なんてしなければ、起こらなかったはずなんだ」

リョーコはそれには答えられなかった。

「…じゃあ、こっちからの報告。ナデシコは四ヶ月は火星に戻らない。エリナの実験に付き合うしかないみたいだ。ジャンプの実験でユートピアコロニーまで跳んで、イネスを連れ帰ってくる」

「その間、俺はどうするんだ?」

「ナデシコでヒカルやイズミと一緒にいたら良い。イネスを連れ帰ってくるまでの辛抱だな」

「イネスを連れてくるのには賛成だけど…ここに俺を一人で置いていかないでくれ。そうなったら、耐えられないよ。お願いだから、一緒にユートピアコロニーまで連れて行ってくれ」

「エリナとアカツキにそう約束を取り付けるのは難しいだろうな」

「じゃあ、聞いてみるっていうことだけでもいいから、約束してくれ」

「わかった、約束するよ」

それを聞くと、リョーコは丸まっていた体を少し伸ばして立ち上がる。

「遅くなってきたみたいだから、もう寝る」

アキトはリョーコが前と同じように、二段ベットの上段で寝るのかと思っていたが、リョーコはドアのほうへと向かった。少し、少しだけ残念だと思った。

リョーコはそんなアキトの心情を分かっていたかのように振り向き、言う。

「ヒカルとイズミにまで見世物になる気はないよ。自分のベットで寝るさ。…お休み、テンカワ」

「お休み、リョーコちゃん」