小説
LONELINESS
第 16 話
アキトは目覚ましの音で起きた。体を起こして周りを見渡してみる。リョーコはすでに起きて部屋を出たらしい。煩くなってきた目覚ましを止め、ベットから這い出た。
上段のベットにはまだリョーコの匂いが残っていた。パリッとした感じの良いにおいが鼻孔に漂ってくる。アキトはリョーコがほかの女性パイロットのように化粧品を多用しないことに好感を持った。
アキトの小さな妄想は緊急アラームのけたたましい音で終わりを告げた。慌てて一番近くにある服に手を伸ばす。まだ生活科に返していなかった黄色の制服だった。
廊下を左へと駆け出す。途中で女性部屋の区域から走ってきたカザマとぶつかりそうになりながら、エステバリスのハンガーへと急ぐ。
荒い息をつきながらエレベーターの到着を待つ。
「テンカワさん、何が起こってるか知ってますか?」
息の合間にやっとという感じでカザマが尋ねる。
「いや、俺も知らない」
アキトも息が荒かった。
ハンガーに着いたときにはすでに準備万端のリョーコが待っており、サクラが女子更衣室からパイロットスーツに着替えて出てきたところだった。
「テンカワ、カザマ、早くしろ。着替える時間はないぞ」
…また痣が増えるのか。アキトは心の中だけで愚痴った。
リョーコを見たことで、朝の妄想が少しよみがえり、それとともに昨夜した話も頭に浮かんでくる。演技に乗ってリョーコの頬にキスをすることにした。自分のエステに向かいながら擦れ違いざまにしたキスは、予想よりも甘く長いものになった。自分を止められなかった。
リョーコは体が解けるような感覚に、脳髄が蕩けるよな感覚に耐えられず、アキトにしがみつくようになってしまう。
「仲直りしたみたいね」
カザマがサクラにそっと耳打ちする。
「昨日、部屋に戻ってこなかったものね」
サクラはアキトとリョーコのキスを目にして、内心怒っていた。リョーコのやつ、部屋でアキトが戻ってくるまで待ってたのね。それでその後、誘ったのね。精精頑張るのね。
「長持ちはしないと思うわ。リョーコは男を惹きつき続けられないタイプだもの」
「二人とも早くしろ!」
まだキスのなごりを振り切れないのか、いまだ頬を赤く染めたままのリョーコが怒鳴った。
「敵艦隊が進行してきた。コスモスの護衛に出る」
四機のエステバリスは完璧なフォーメーションでハンガーを飛び出た。
「コスモスは艦隊の後衛だから、敵と遭遇するまでまだ少し猶予があるだろう。任務はどんな事をしてでもコスモスを守ることだ。気を抜くなよ」
エステバリス隊の隊長のリョーコが命令する。
アキトは木星蜥蜴と連合宇宙軍が前方で戦っている様子を眺めていた。大きな爆発がここからでは宇宙に火花が散っているように見える。
ネルガルはこの作戦に反対だったんだろうな。ここにコスモスが来ているのも連合宇宙軍からの命令だと聞いたし。戦闘宙域から結構離れてるしな…。アキトはそんなことを考えていた。
戦闘は段々と不利になってきたようだ。チューリップを使った無限と思える量の敵の援軍が少しづつ宇宙軍を押していった。こちらのほうに漂ってきたバッタを数機カザマとサクラが撃墜した。
突然、辺りが明るくなったかと思うとチューリップの一つが爆発し、ナデシコが現れた。
「リョーコちゃん、見える?」
興奮した感じのアキトがリョーコに確認する。
「どうやって見逃すってんだよ」
「あれがナデシコですか?」
カザマが問う。
アキトはナデシコが以前よりもひどいダメージを受けているのを見た。
「木星蜥蜴がナデシコを攻撃してる」
リョーコが報告する。
ナデシコもエステバリスを護衛に出した。全部で四機。二機はヒカルとイズミ。なら、他の二機はいったい誰が?アキトとリョーコに共通の疑問が頭に浮かぶ。
今回、ユリカは無差別的なグラビティーブラストを発射しなかった。ナデシコから繰り出される攻撃は全て木星蜥蜴へ向けてのものだ。
「リョーコ、助けたほうがよさそうだ。結構やばい状況になってるとおもう」
「サクラとカザマはコスモスの護衛に残れ。俺とテンカワはナデシコにいってくる」
そのとき、アカツキからの通信ウィンドウが開く。
「コスモスは大丈夫だ。全機ナデシコの護衛に回れ。僕もエステバリスで出る」
「いくぞ、やろうども!」
リョーコの威勢の良い声が響く。
少し遅れたアカツキのエステもフォーメーションに加わり、エステ五機でナデシコへ向かった。
ナデシコの周囲の宙域はバッタでいっぱいだった。アキトたちは虫を追い払うような感じでナデシコ周囲の木星蜥蜴を掃討していった。
赤い0G戦フレームがアキトの前を通り過ぎていった。以前はリョーコが乗っていたエステだったが、今はアオイ・ジュンが操縦していると表示された。
「コスモスからの多連装グラビティーブラストがくる。斜線上から退避」
アカツキからの連絡が入る。
コスモスの援護で木星蜥蜴の包囲が薄くなり始める。
今度はピンクのエステが目の前をよぎる。パイロットはガイだった。
木星蜥蜴が劣勢になり始めたころ、一つの敵戦艦がナデシコに向かって突撃してきた。ナデシコのと間にいたピンクのエステは戦艦に向かい加速する。
「ガイ!!」
アキトはリョーコの周りに纏わりついていたバッタ撃墜し終えてガイの援護に向かう。それを見たリョーコは恐怖に駆られる。
「アキト、だめだ、間に合わない!」
ガイは手に持っていたブレードを敵戦艦のディストーションフィールドに突き立てる。ダメージを追っていた敵戦艦のフィールドを易々と突き破り、ブレードをたてながら戦艦の横をはしる。横っ腹を切り開けられた戦艦は爆発し、ピンクのエステはそれに巻き込まれ、反動でナデシコの方へと飛ばされた。戦艦の爆発でいかれたのか、エステはディストーションフィールドを張らないまま、ナデシコのフィールドに激突した。
アキトのエステの画面にフレームからコックピットが放り出される様が映る。そして、そのコックピットにできた大きな裂け目も高解像度を誇るウィンドウに色鮮やかにうつる。
「ガイ…ガイ…ガイィィィ!!」
アキトが吼える。
二度目の親友の死だった。
木星蜥蜴はすでに後退し始めていた。
アキトとリョーコはピンクのエステのコックピットを抱え、アカツキと共にナデシコに着艦した。カザマとサクラはアカツキの命令でコスモスへと戻っていった。ナデシコはその後、修理などのためにコスモスに収容された。